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携帯紛失事件

 
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 国家記念碑
 ちょうど折悪く、この時突然の雨が降ってきた。
 まもなく止んだが、まるで私の心の中を見透かしたかのような雨だった。


 2泊3日のミーティングも無事終わり
私と友人たちはあらかじめ予約しておいた
別のホテルへとタクシーで移動した。
日曜日の昼過ぎのことである。

 この後は有志で
クアラルンプール観光に行くことになっており
マレーシア人の友人の義姉がアレンジしてくれた
バスとガイド(貸切)が到着するのを
ロビーで待つばかりである。

 ここで、何気なくバッグを覗いた私は
携帯が無いことに気がついた。

 最後に携帯を見たのは
先ほどまでいたホテルのロビーである。
その他はどこも歩きまわっていないので
可能性のある紛失場所は
両方のホテル近辺とタクシーの中しかない。

 でもホテルや道端で落とせば
音がするので絶対に気がつくはずである。

 気がつかない場所、
それはタクシーの中である。
おそらく座った時にバッグが斜めになり
横ポケットに入れた携帯が
滑り落ちてしまったのだろう。

 でも今は
「何でこんなところに入れたんだろう。」
と悔やんでいる場合ではない。
すばやく対処しなければ。

 あの時、私たちはホテルの前で待機している3台の
タクシーに分乗した。
幸いなことにここにレシートもある。
友人がタクシー会社に電話してくれたら
それぞれの運転手(3台のうちのどれかはわからない)に連絡してから
折り返しホテルに電話をするというので
その旨、ホテルの受付に伝えてから
観光に出かけた。
念のために昼まで滞在していたホテルにも電話してみたが
やはり携帯は落ちていなかったとのことであった。

 もちろん、私は観光を楽しめる心境ではない。
この携帯は日本のもので海外渡航モードである。
だから通話料金は恐ろしく高い。
だからもし、誰かに使われてしまったら
損害がいったいいくらになるのか見当もつかない。

 友人の携帯を借りて自分の携帯に電話してみたが
呼び出し音が鳴るばかりで誰も出る気配がない。
ミーティングに参加していた時から
マナーモードにしてあったので
どこか私の知らない場所で音も出さずに
ブルブル震えているのである。

 とりあえず電話機能をストップした方がいいのだろうか。
でも、携帯会社の電話番号など持っていない。
たとえ、わかったとしても、ここから電話するのは至難の業である。
友人にも迷惑はかけられない。

 夫にメール?
いや、夫にはそんな複雑なことを日本語で対処できる能力はない。
(もっと日本語を特訓させるべきだった!)
両親にもそれは望めない。

 では妹?
しかし、妹の電話番号もメルアドも覚えていないのだった。
メモもしていない。
何しろ情報はすべて携帯に詰まっているのである。
ここで私はいかに携帯電話に依存していたか
思い知らされたのであった。

 途中ガイドさんがホテルの受付に電話してくれたが
(彼女の携帯のみが国内仕様なので)
タクシー会社からの連絡はまだないという。

 続いてタクシー会社にも電話してもらう。
ここでの返事は、
「運転手に聞いてみたがあいにく無かった」
との事だった。
(「なぜ結果がわかっていたのにホテルに早く電話してくれなかったのか?」
との問いはこの国では無駄である。)

 さあ、ここで携帯紛失が現実的な問題となってきた。
まず、ホテルに帰ったらネットで携帯会社の電話番号を調べ
電話をストップしてもらう。
帰国後すぐに次の携帯を購入して
今までの電話番号とメルアドがそのまま使えるにしなければ
仕事に差し支える。
この携帯はうちの英会話スクールの移動オフィスなのである。

 こんなことになるのなら
電話帳もバックアップ取ってくんだったなあ。

 友人たちは皆、心配してくれていた。 
「落としたのが私のならよかったのに。
私はほとんど使っていないので全然困らないもん。」と
なんだか変な慰め方をする人も。

 よほど私は思い悩んでいる顔をしていたのか
(けっこうあきらめ早いからそれほどでもなかったんだけど)
マレーシア人の友人が
「今からバスを降りてふたりで最初のホテルに戻ろう。」と言ってくれた。
私たちは国家記念碑のあたりにいて
幸いなことに、これから向かうツインタワーを
私は3年前に来た時に見ている。
仲間とは再びセントラルステーションで
落ち合うことにして
私たちはタクシーでホテルに向かった。

 タクシーの中で友人は言う。
「日本では携帯など盗む人もいないけれど
ここでは日常的なの。
タクシーでも次の乗客が乗っていたらもうアウト。
見つけた人がマレー人なら戻ってくるかもしれない。
でも中国系なら無理だと思う。
(注:彼女も中国系である。)」と。

 ここで私は使われた場合の損害について考えていた。
「ねえ、警察に届けるのはどう?」
「警察?そういうことやったことないけど
 きっとものすごく時間がかかるよ。」
タクシーの運転手も
「警察に行っても見つからない、無駄だと思うよ。」と。

「見つかるとは思っていないの。
 私は紛失したという証明書が欲しいだけ。
 もしかしたら何か盗難保険とか、
 カードの海外旅行保険にも
 付いていたかもしれないし、
 万が一使われていた時、
 不正使用の証明にもなるかもしれないし。
 まあ、何の役にも立たないかもしれないけどね、
 面倒かけて悪いけど
 一応届け出は、しておいた方がいいと思うの。」

 そこで友人はハタとひらめいた。
「タクシー会社に、これから警察にもレポートするといえば
真剣に対応してくれるかもしれない。」

 そうこうしているうちにホテルに到着。
まずはホテルに携帯の落し物について
受付で再度聞いてみたら
セキュリティ担当の人を読んでくれた。
その担当者と共に
タクシーの受付に出向いた。
私たちが乗ったタクシーはホテル付きのものなのだ。

 そこで乗った時間を言うと
明らかに該当する3台の車の記録が出てきた。
当然である。
友人がすかさず言う。
「私たちこれから警察に行ってレポートするつもりです。」

 と、その「警察」ということばに反応したのかどうかはわからないが
そこにすっ飛んできたのは
タクシー会社の責任者(たぶん)の男性だ。
心配そうに私たちの横に立って成り行きを見守っている。

 タクシー会社の受付の女性がまず最初の2台の車に無線で連絡した。
「ふたりとも無かったと言っています。」
「後ろの座席なんです。」と私。
彼女は3台目の運転手に連絡する時に
「後ろの座席」と付けくわえた。

 と、その女性が受話器を置いたと思ったら
客待ちをしていたらしい3台目の運転手が突然登場!
それはまぎれもなく私が乗った車の運転手だ。

 そしてその手には
 私の携帯が燦然と輝いている!

 ぎゃあー信じられない!
マレー人の運転手はにっこり。タクシー会社の責任者もにっこり。
セキュリティの人もにっこり、
もちろん私もにっこり。
もうそこいら中で握手とハグの嵐だ。

 この奇跡はさっそくバスで観光している仲間のところにも伝えられ
車内は大きな拍手で包まれたという。
(みなさんご迷惑おかけしました。)

 ところで、携帯が見つかったのは、
落としてから4時間後のことである。

 最初に問い合わせした時に
タクシー会社のオペレーターは
運転手に聞きもせずに「無い」と言ったのか、

 それとも聞いたけれど運転手はろくに探しもせずに
「無い」と言ったのか、

 実は見つけていたけれど「無い」と言っていたのか、
 
 真相は闇の中である。

 また、私たちがホテルに再び現れたことによって
真剣さが伝わったから「見つけてくれた」のか

 「警察」ということばで
面倒なことに巻き込まれるのが嫌だったから
「見つかった」のか、
これも謎のままだけど
携帯が手元に戻ってきた今となっては
もうどうでもよいことである。

 後でマレーシア友人にどう思っていたか聞いてみたところ、
「見つからない確率が80パーセントだと思っていた。
ホテルの中なら50パーセントの確率で見つかったかもしれないが
タクシーの中なら100パーセント無理だと思った。」そうである。

 この晩、友人の家族と食事をした。
そこで3年前にも出会った友人の姪の婚約者に
この携帯紛失事件を話したところ
彼は言った。
「僕も映画館の中に携帯を忘れたことがある。
すぐに気が付いて戻ったけど、もう後片もなく無くなっていたよ。」


 紛失が発覚して間もない頃、友人たちが私のために祈ってくれた。
その時に私たちがいたのはイスラムセンターの前である。
 
 イスラムの神の前でキリストの神に祈ったのである。

 不謹慎なことではあるが、それがよかったのか、
とにかく奇跡は起こったのである。

 みなさんも旅行中に何かを紛失しても
けっしてあきらめないように。


 ちなみにまだ携帯のバックアップは取っていない・・。
のど元過ぎれば・・・ってことね、情けないけど。

by arizonaroom | 2010-10-22 21:11 | | Comments(6)

Commented by 花ケーキ at 2010-10-23 19:13 x
arizonaさん・・・本当に本当に
良かったですね。
このドラマに感動です。
Commented by arizonaroom at 2010-10-23 20:34
花ケーキさん
最初に聞いた2台はノーで
最後の車に望みを託して聞いた時に
本人が現れたのがまるでドラマのようでした。
今、手元に携帯があるのが本当に奇跡です。
Commented by ぱれっと at 2010-10-24 23:13 x
よく出ましたね〜!
これは、感動です。本当に奇跡かも。

うちの夫は、バスの乗換場所の混雑中にスリに携帯をやられました。すごく警戒して、ストラップをベルトに繋ぐタイプだったのですが、ストラップの細いヒモが、きれいに焼き切られていました。多分、プロの仕業。

むこうでは、携帯はシムカードを抜くとほとんど形跡を残さず転売できるので、携帯も盗みの対象になるんですね。いや〜、出てきて良かったです。上手に「警察」とか、キーワードをちらつかせたのが良かったのかな。

Commented by トルテ at 2010-10-25 00:33 x
出た~!!Arizonaroomさんのお家芸(?)ともいえる神様の不思議ですね!
いつも目に見える形の神様のことを書いてくれるのが本当に楽しみで励みです。
Commented by arizonaroom at 2010-10-25 13:23
ぱれっとさん
御主人もやられたんですね。ジャカルタですか?
日本も治安が悪くなったとはいえ、まだまだ安全といえますね。

私の携帯は本当に奇跡です。

落とした時に観光しながら友人に
「そのうち今日のことが笑い話となる日が来るよね。」と
言っていたのですが
それがその日のうちに「笑い話」になるとは
夢にも思いませんでした。
今は、貴重な経験をしたと思っています。

Commented by arizonaroom at 2010-10-25 13:27
トルテさん
奇跡としか言いようがない出来事に遭遇できて
今となっては感謝のひとことしかありません。