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始まり

 「こんなに長生きするとは思わなかったなあ。」
と父が何気なくつぶやいた5年前の秋のこと。

父が「血を吐いて救急車で運ばれた。」
という妹からの電話に驚き
私は急いで病院に駆け付けた。

 でもそれは単なる出血性胃潰瘍だということで
私達は心の底からホッとした。

 しかし、翌日とんでもないことがわかった。
C型肝炎に感染していたのだ。
驚いた医師が肝臓を検査したら
肝硬変と8センチの腫瘍が見つかったのだ。

 大きさから見て、昨日今日誕生した癌でないことは確かである。
そもそも注射針をガンガン使いまわされた世代。
後に血液製剤からの感染が明らかになった病院で
腎臓結石の手術もしている。
なぜ、今まで一度も肝炎の検査をしていなかったのか驚きである。

 父曰く「他人事だと思っていた。」

のんきな人である。

 ともあれ、医師は父に腫瘍を発見したことは伏せたまま
「造影剤を飲んでCTスキャンの検査をしましょう。」などと言ったものだから
父はそれを拒否してしまったのだ。
詳細は忘れてしまったが、
造影剤か何かの副作用について知識があったからだと思う。

 母からそのことを聞いて
病院に駆け付けた私は医師に言った。
「はっきり腫瘍があると本人に伝えてください。
そうしたら検査に同意すると思います。」

 
「本人に告知するのを避けたいご家族もいらっしゃいますから
気を使ったのですが、わかりました。
ではこれからは、ご家族にだけでなくご本人にも
病状を詳しく知らせましょう。」ということになった。

 その結果、父は検査に同意したのだった。

 *****

「肝臓がんは治らないんだよ。」

 このままこの病院に入院したまま治療を進めようかという話になった時に
父はそう言った。

 「とりあえず家に帰りたい。」

 一度退院した父は、その後がんが専門の病院に行くことになる。

「この大きさでは手術は無理」と父の新しい主治医は言った。

 ということは、やはり完治しないのか。
これで父の寿命は尽きるのか。
目の前が真っ暗になったけれど
結果は1回のカテーテルと数十回にも及ぶ放射線治療で
この大きな癌は見事に死滅した。

 その後、2年間は腫瘍マーカーも正常値を保ち
父の肝臓は極めて健康となった。


*****
 やり直しがきかないこの世の中で
「もし、あの時・・・・・だったら」と考えるのはあまり建設的ではない。

それでも私は思う。

 もし、もっと初期の頃にC型肝炎があることを知っていたら
癌の発症は防げていただろう。

反面
副作用があり、当時は保険も効かなかった
高額なインターフェロン治療で
父はもっと大変な思いをしていたかもしれない。

 
 もし、胃潰瘍で病院に運ばれなかったなら
癌の発見はもっと遅れていたであろう。

 反面、
これほど大きな癌が、転移もせず、悪さもせず
長い間、そこに存在していたのだから

 もしかしたら、ずっとこのまま静かなままで
父が寿命か何かで亡くなった時に
「あれ?こんなところに癌があったんだ。」
と医師が驚くということになったという可能性もあったかも。


 もちろん、こんなことを考えても仕方がないことではあるが。

 ともあれ、最後は 縦隔、肺、首へと癌は転移したけれど
肝臓は最期まで綺麗なままであったそうである。




 

by arizonaroom | 2012-01-24 21:41 | 健康 | Comments(2)

Commented by 薫風 at 2012-01-25 09:38 x
勇気と優しさを感じました。
お父様は幸せな方ですね。

ご冥福をお祈りします。
Commented by arizonaroom at 2012-01-25 15:36
薫風さん
ありがとうございます。
薫風さんのお父様が亡くなられたのは
もう2年前くらいでしたね。
誰もが通る道だとは知りながらも
やはり切ないです。