岸惠子「ベラルーシの林檎」

 
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 岸惠子は国際派大女優であるために
実に損をしていると思う。
もちろん、女優であったからこそ
稀有な体験が出来、本も出版できたのに違いないが
そのような色眼鏡で彼女のエッセイが見られているとしたら
大変残念なことである。

 彼女の人生は大胆で浮き草のような感じを受けるが
実際は真面目で少しも浮ついたところの無い人である。
感受性の鋭さは抜群、
ほとばしるような情熱と同時に
冷静に物事を見据えられる目も併せ持っている。
そして何よりも彼女には文才がある。

 まだまだ敗戦国としての色が濃かった1957年に
フランス人の監督と結婚、
後に夫の浮気により離婚に至る話はあまりにも有名であるが
彼女の国際派人生は
そんな家庭の小さな枠には留まってはいない。
夫だけが世界を見る窓でなかった証拠である。

 このエッセイでもユダヤとの出会い、東欧での出来事などが
確かな目と豊かな文章力で生き生きと描かれている。
そして切なさにも似た日本への思い。

 あとがきに彼女はこう記している。
自叙伝ではありません。
けれども「私」という個人の眼に映り、
肌に染み込んできた人の世の無残やいとおしさを、
日本と私、ヨーロッパと私の関係で書きすすめました。


 本当は「国境が動く」というタイトルにする予定であったという。
それを何故「べラルーシの林檎」に変えたのか、
ぜひこの本を読みながら
彼女の熱き思いを感じ取っていただきたいと思う。
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by arizonaroom | 2007-05-25 23:37 | 映画&TV&本 | Comments(0)