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滅びの美学

 
 「フランダースの犬」を検証するドキュメンタリー映画が
完成したという記事を読んだ。
クリスマスの日のことである。
、物語でネロの死に場所となった大聖堂のルーベンスの絵を見上げ
日本人が涙を流す姿を見たのが制作のきっかけだそうである。
実はこの物語が有名なのは日本だけなのだ。

 監督はベルギー北部フランドル(英名フランダース)地方在住のベルギー人、
ディディエ・ボルカールト。
物語は1870年代に英国人作家によって書かれた。
これが日本に入ってきたのは1900年初頭。
以来、たくさんの翻訳者によって出版され続けてきた。

 しかし、英国やベルギーでは、
この物語は全然評価されなかった。
理由は結末が「負け犬の死」だからである。
特にベルギーでは自分たちを冷たい人間に描いた英国人を許せない。
考えてみたら外国人が勝手にベルギーを舞台にして、失礼な話ではある。

 それに対して日本では「フランダースの犬」は
昔から児童文学集の中に入っていたと思う。
爆発的ブームになったのは1975年に始まったアニメ番組からであろうl。
そのアニメを見て育った世代が海外旅行するようになり
物語の場所をひと眼見ようと
アントワープに続々と押しかけ
そんな物語があったことも知らなかった観光課の職員は
驚きながら図書館で猛勉強。
それがきっかけでとうとうネロとパトラシュの像が
できてしまったのはあまりにも有名な話である。

アメリカでは数回、この話が映画化されたが
そのどれもがハッピーエンドに変えられているという。
前回のは原作通りのエンディングとハッピーエンディングの2つが準備され、
日本ではもちろん悲劇版が上映された。

 話を元に戻そう。
この物語がなぜ日本でのみ共感を集めたのか
監督は3年を費やして解明を試み、
浮かび上がったのは日本人の心に潜む「滅びの美学」だったのだそうだ。

 確かに潔く散る桜をわれわれはこよなく愛す。
新撰組も義経も好きである。
でも私に関して言えば
最初から悲しい結末がわかっているこのアニメを
毎週見る気になんてとてもなれなかった。
数年前のアメリカ映画だって当然パスした。

 もちろんハッピーエンド版を手に入れる方法だってあったけど
(アメリカでは当然ハッピーエンド版)
子どもの頃に読んでからストーリーは頭に刷り込まれているので
そんなトリックにだまされようもない。
これを何回も読んで、あるいは観て毎回涙する人の気が知れない。

 私が思うに、日本人は悲しいエンディングが好きだったのではなく
かわいいアニメーションと
貧しいながらもまっすぐに
生きているネロと
ほほえましいパトラッシュとの関係が
好きだったのだと思うのだが。
 
だから、このドキュメンタリー映画では
いったい日本人をどのように「調理」したのか
非常に興味がある。
はたして私たち日本人までも納得させることができるものだろうか。
機会があればこのドキュメンタリーをぜひ見たいと思っている。

 
 

 最後にひとこと。
「マッチ売りの少女を好きなのは日本人だけではないでしょう?」

by arizonaroom | 2007-12-28 23:58 | 映画&TV&本 | Comments(4)

Commented by mono at 2007-12-30 11:09 x
実は、私もこのお話が嫌いでした。
子どもの時にこの本を読んで「なんでこんな良い子が死ななきゃいけないんだろう!何で周りの大人がちゃんと助けてあげなかったんだろう!」ととても腹が立ったのでした。この本を読んでから私は絶対ハッピーエンドにならないお話は読まないと心に誓いました。(笑) もちろんそれ以来フランダースの犬のお話も読まなければアニメも観ていません。
あのアニメが爆発的に人気が出たのも私にとっては不思議と言うか観る人の気が知れないと思ったものでした。まぁ、あのアニメの可愛さが良かったのでしょうが・・・
そんなわけでアンデルセンのお話も苦手です。
Commented by arizonaroom at 2007-12-30 20:18
monoさん
本当にこの英国人女性はなんでこういう終わりにしちゃったんだろうと思います。
他国の人にこんな風に書かれてしまったベルギー人が怒るのも
無理ないかな・・と。
どちらかというとヨーロッパよりアメリカの物語の方が
ハッピーエンドが多いような気がします。
Commented by palette at 2007-12-31 10:16 x
エツコさん、クリスマスシーズン、たくさんの映画を見てらっしゃるんですね。(↑)。にもかかわらず、こちらにコメントですみません。私も、この話は子どもの頃から嫌いだったんです。心のきれいな子どもが、なんら救われることなく死んでいくなんて、許せなかった!(案外正義の味方でした!)
まあ、正義はともかくとして、これを「滅びの美学」にされるのはちょっと違和感あります。マッチ売りの少女もね。
滅びの美学なら、人魚姫にはそれが有ると思いますけど。

そんなわけで、大晦日ですね。どうぞ良いお年をお迎えください。エツコさんのお話を楽しみにしています!

Commented by arizonaroom at 2007-12-31 21:08
PALETTEさん
大掃除をさぼっているのがばれちゃいましたね。
こうやってみると「アンチフランダースの犬」派多いのですね。
SPれなのに滅びの美学とは、いったい何を調べていたんでしょうね。
結局日本人がアントワープに押しかけていたのは
単に物語の舞台を見てみたかっただけかも。
ルーベンスの絵もあるし。
まあ、ファンもいたからこそテレビも続いていたのでしょうけど。

PALETTEさんもどうぞよいお年を。
私こそ、サイト楽しみにしていますよ~。