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ショートカッツ

 舞台はアメリカの住宅街。
総勢22人の主要人物(9家族)が
それぞれの場所で織り成す物語である。

 22人!と聞けば驚いてしまうが
実はアメリカのチェーホフと呼ばれている
レイモンド・カーヴァーの9つの短編と一編を元に
作られた映画なのである。

 この人物たちは、それぞれどこかで、
ちょっとだけ繋がっているのだが、基本的には赤の他人。
冒頭から9組の話が断片的に映し出されるので
顔と名前と関係を覚えるのが苦手な人には
なかなか話が掴めず、ちょっと大変だ。
また内容がかなり凝縮されているので
ひとつのエピソード、ひとつのセリフを聞き逃しただけでも
物語は致命的にわからなくなってしまう恐れも。

 でも3時間という長い映画ではあったが、
その長さを全く感じさせないほどテンポがよい。

 それぞれの家族にはそれぞれの事情があり、
それは外からは絶対伺いしれない世界である。

 ひとつの家族には死という悲劇が見舞われているのに
ある家族はくだらないドンちゃん騒ぎ。
ある理想的に見えるカップルは
3年前の妻の浮気疑惑を巡っての大喧嘩。

 とても現実的とは思えないエピソードも満載だが
ここで製作者が言いたかったのは
死と生、正常と狂気の狭間で
うごめく人間の性(さが)というところか。

 この作品は1994年製作である。
でも時代設定はもっと前なのだろうと思う。
なぜなら自宅の電話はコードで繋がっているし
有名なニュースキャスターでさえ
携帯電話を持っていない。

 山奥で釣りをしている最中に他殺死体を見つけたものの
通報に町に戻る(徒歩3時間)のが面倒という理由だけで
そのまま釣りキャンプを続行してしまった男3人組も
携帯があればそんなこともしなかったろうに。
(電波が届いたかどうかはまた別の話)

 それほど昔の話ではないのに
現代との断層もしっかり見えてしまった映画であった。

by arizonaroom | 2010-07-08 19:52 | 映画&TV&本 | Comments(0)