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父の死

 
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病院に持って行った正月の家族と父の手料理写真。
父は本当に嬉しそうに眺めていた。
それぞれの写真に「父の手料理モンブラン」など手書きで説明を入れたものを
看護師さんが病室の壁に貼ってくれたので
出入りするすべての医療スタッフにも見てもらうことができた。




 今月家族と共に正月を元気に過ごした2日後、
父は突然脳出血で倒れ
ずっと入院していたのだが
昨日ついに力尽き、亡くなった。
 享年85歳。

 最後の1週間、
私は連日、父の病室に泊まり込み
呼吸が出来ず苦しむ父の傍に
ずっと付き添っていたのに
父の心臓が止まったのは
私が病院から徒歩と電車で30分ほどの実家に
シャワーを浴びに帰っているちょっとの間だった。

 容体は安定していたので、後は妹に任せて
安心して帰ったのに
「酸素と心拍数が急激に下がってきた」との妹からのメールに
急きょトンボ返り、
でも20分遅かったのだった。

 ただ、前日意識がだんだん薄れていく時にいたのは私ひとりで
呼びかけには、まったく反応はしなくなってからも
父の暖かい手だけは
私の手を強く握りかえしていてくれた。

 最期の1週間、それはそれは苦しいものだった。
肺はもうほとんど機能していなかったため
酸素を人工的に送り込むのだけれど
24時間一睡もできず、一時も休まる時が無いのである。

 右半身まひのため、口から出る言葉も言葉にならない。
ベッドから動くこともできず
体も点滴など、数多くのチューブにつながれたままである。

 認知症とは無縁だった父の頭の中は
自分の状態を悲しいほど正確に把握している。
「もういいよ。」と私は何度言われたことか。

 酸素マスクを自分で取ってしまう父に
「そんなことしないで!
死ぬ時は神様が決めるの。自分で決めちゃいけないの!」と
泣きながらまたマスクを付け直す私に
父は力なくうなずくのである。

 でも私は、心の中でずっと
「父はすでに人工的に生かされている。
神様の時なんでとっくに過ぎているのではないか。
24時間苦しみ続けるために生かされているというのは
間違っているのではないか。」と
叫び続けていたのだった。

 だから意識朦朧としてきたのがわかった時は
悲しかったけれど、
父のためには「これでよかったのだ」とも思った。

 3日前くらいから天井に何かが見えるようになった父。
酸素不足の脳が幻影を見せるのだろうが
苦しみながらも嬉しそうに眺めていたのを見たら
あれも神様のプレゼントなのかもしれないと思った。

 父は何が見えているのかを
何度か私に教えてくれようとしたけれど
悲しいかな、
父の口は正しい言葉を発することはできないのだった。


 母はもちろん毎日父のそばに居続けていたし、
妹二人も家庭を放り出して
頻繁に病院に訪れて
時には寝泊まりもしたけれど
連続5日間同じ病室に寝泊まりしていたのは
私だけだったので
父と二人だけの実に多くの時間を
共有することができた。

 家族旅行等、昔の思い出話もたくさんした。
もちろん、私が一方的にしただけだったけど
その都度父は頷いてくれるのである。

 「イエス様に祈るね。」と言うと
やはり頷いてじっと祈りを聞いていてくれる。
父の心の中は見えないけれど
憐れみ深い神様にはきっと届いているはず。

このお正月は例年通り
手作りのお節やお寿司、デザートなどを
私たちのためにふるまってくれた父。
いつもは年末に夫の実家に行くため、東京にはいない妹一家も
今年に限っていたのも幸いだった。

 父は逝ってしまったけれど
私たち家族の心の中に生きている。
あの数々の手料理を楽しむことは
もうかなわない夢となってしまったけれど。
これからは遺された母を大切にして生きていこう。


*******
 父の肝臓に8センチの腫瘍が見つかったのが5年前。
C型肝炎から肝硬変から肝がんとなったのは
この大きさからすれば10年以上も前の事である。
医者嫌いの父は
出血性胃潰瘍で倒れるまで
C型肝炎があることすら知らなかったである。

 奇跡的にこの癌は放射線治療で根治した。
その後の腫瘍マーカーも2年くらいは正常値で
縦隔や肺、首などに転移しはずめたのは1昨年くらいからである。

 しかし、不思議に癌の痛みは最後までまったくなかった。
「がまんしていたのではないか?」と
思われる向きもあるかもしれないけれど
父は痛みには弱い人だったので、それは無いと断言できる。

  今までここに書くことができなかった父の癌との戦いや、
それを受け止める医療現場について
私が見聞きしたこと、思ったことなども
これから少しずつ書いていきたいと思っている。

by arizonaroom | 2012-01-22 11:28 | 健康 | Comments(8)

Commented by 花ケーキ at 2012-01-22 16:38 x
神様の憐れみを信じます。
arizonaさん、お疲れ様でした。
Commented by arizonaroom at 2012-01-22 20:56
花ケーキさん
父はとても元気だったけど
何となく「来年は無いかも」という予感は
ありました。
でもまさかこんなに急だとは夢にも思いませんでした。
父の思い出を胸にまた明日から頑張ります。
Commented by トルテ at 2012-01-23 21:53 x
心からご冥福をお祈りします。
沢山の神様の恵みがお母様、ご家族の上にありますように。
Commented by arizonaroom at 2012-01-23 22:36
トルテさん
ありがとうございます。
家族の平安のためにお祈りください。
Commented by おはいお at 2012-02-02 23:45 x
本当に驚きました。お正月にご家族みなさまと過ごされ、お父様はとてもお幸せだったと思います。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
Commented by arizonaroom at 2012-02-03 09:01
おはいおさん
ありがとうございます。
癌は患っておりましたが、4日に倒れるまでは
元気に動き回っておりました。
最期の2週間はかわいそうだったけれど長患いもせず、
病室では常に母と娘たちに付き添われ
幸せな生涯だったと思います。
Commented by Nao at 2012-02-04 21:42 x
はじめまして。
家族の死はとても悲しいですね。
ブログ読ませてもらって胸が痛くなりました。
私の父も今週なくなって昨日お葬式が終わったばかりです。
なので気持はよくわかります。
Commented by arizonaroom at 2012-02-04 23:31
Naoさん
ようこそいらっしゃいました。
Naoさんのお父様も亡くなられたばかりなのですね。
つい最近までいた身近な人がこの世から消えてしまったなんて
なかなか現実として受け止められませんよね。
悲しみをすぐには癒すことはできませんが
NaoさんやNaoさんのご家族の心の平安のために
お祈りいたします。