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ある犬の独り言



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 僕の名はクリ。
由緒正しい家系出身で本名はクリスナントカカントカとながーい名前があるんだけど
誰も僕のことをクリスと呼ばないんだ。
だから「目がクリクリしているからクリ。」と思っている人もいたくらい。

 僕は新潟で生まれた。
本当は僕のお母さんは犬が嫌いだったんだって。
縁あって僕と知り合ったけど、
もし抱いて僕が吼えたら飼うのをやめようと思ったらしい。
でも僕は鳴かなかったよ。ひと目でお母さんを好きになったから。

 僕はとてもいい子だった。
最初の頃はお母さんもお父さんも
外出する時はそっと僕に気づかれないように出て行った。
それで僕は怒って家中のティッシュを全部引っ張り出しちゃった。
それからは二人は「出かけてくるからいい子でお留守番していてね。」
と言うようになった。
もちろん僕は言うことを良く聞いてそれ以来ずっとお利口にお留守番していたよ。

 お父さんが出張の時や、お母さんが病気で寝ていたとき
僕は悪いやつらから守るため、いつも外を家の中から見張っていたんだ。
庭を歩く野良猫がちょっぴり怖かったこともあるけどね。

 お客さんの接待も僕の係り。
お客様が来る日はちゃんとわかっていて、
いつも玄関でお出迎えしていたんだ。
小さい子どもはちょっと苦手だったけど。
お茶室に入ろうとする男の子を注意したこともある。
「子どもと犬は入っちゃいけないんだよ。」ってね。

 でも今年で僕は17歳。
もう耳も聞こえない、目も見えない。歩けない。
つらかった。痛かった。
この朝も病院に行った。
翌日もまた検査をするらしい。
でも僕が生きているだけでお母さんもお父さんも嬉しいんだって。
だから僕はがんばった。一生懸命生きた。
トイレもがんばって外でした。

 昨日、神様が僕の聞こえない耳にささやいた。
「クリ。君はよくがんばったね。でももういいよ。
お母さんもお父さんもわかってくれる。」

 そうか。僕がんばったんだね。
もうそろそろお空から見守ってもいい頃だよね。
でも母さんとお父さんはこれから大切な用で外出する。
苦しいところ見せないようにしなくちゃ。
心配して出かけられなくなったら大変。

 午後3時頃二人は帰ってきた。
もう安心。僕はお母さんの胸の中で永遠の眠りに入ることにしたよ。
お母さんありがとう。
僕のために買ったミルク無駄になっちゃったね。
お父さんもそんなに悲しまないで。
お酒も飲みすぎちゃだめ。
僕の分までお母さんを守ってね。

 今日、僕の死を聞いてたくさんの人たちが駆けつけてくれた。
みんな僕が好きだったんだって。
みんなの声はお空にいる僕までちゃんと届いたよ。
「クリちゃん、たくさんの幸せをありがとう。」って。
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by arizonaroom | 2006-02-19 21:02 | 日常&雑感 | Comments(0)